第3部 分子矯正医学とは?

(1)「生命の鎖」理論と分子矯正医学

私たち成人の身体は60兆個もの細胞から成り立っています。細胞は生命の基本単位であり、栄養や酸素の供給がうまくいかなくなれば、その細胞は受け持っている働きが果たせなくなり、はなはだしい場合には死滅してしまいます。全身の健康を考える場合にも、細胞レベルで考察することは不可欠です。

ビタミンB群のひとつであるパントテン酸の発見者である故ロジャー・ウイリアムス博士は、名著、『健康になるための栄養学早分かり』(中央公論社)で、「細胞の生命を維持するためには、少なくとも18種類のミネラル、20種類のビタミン、8種類のアミノ酸が一定量揃い、相互に支え合っている状態で細胞外液に溶け込んでいることが必要である。」と述べており、必須栄養素は鎖で出来た首飾りのようなもので、「生命の鎖」と呼びました。一ヶ所でも細いところがあれば、容易に切れてしまうことが想像できます。

この46種類の栄養素は、どれかがひとつ欠けたとしても鎖としての働きは失われ、細胞の病変につながります。逆の見方をすると、細胞の健康度、元気度はその揃い方によって、極めて快調な状態から、死にいたるまで無限ともいえる様々な段階があるといえます。

アメリカでは、この生体内に本来あるべき分子をそろえ、正常て病気に対処しようという考え方が、栄養学から医学の分野にその実戦の場をひろげ、「ニュートリション・セラピー」の名のもとに成果をあげています。我が国においてニュートリション・セラピーは、「正常分子栄養学」とか「分子矯正医学(Ortho-Molecular Medicine)」などと訳されています。1970年代はじめにライナス・ポーリングが提唱した分子矯正医学は「通常体内にある分子を、各人の体が正常に機能するよう正しい分子濃度に調節する医学」ということを意味します。

細胞の栄養環境は、現実には必要な養分がいつも揃っているとはかぎりません。現代人の9割もの人が病気とまではいえないまでも、何らかの症状を自覚しており、病気とは診断されないけれど、健康とはいいがたい状況にあるというのは、むしろ何かが不足している状態であることを示しているといえるのです。そこで、これらの問題を解決するうえでポイントになるのが毛髪分析による生体内のミネラルチェックです。分析結果は身体内部の状況を語ります。

(2)臨床的価値の高い『毛髪分析』による生体内のミネラルチェック

―Hair knows everything about you―

『毛髪分析』とはアメリカで開発された、生体内のミネラルの状況を把握するための科学技術です。

私たちの毛髪に含まれている、鉄や銅といったミネラルの量は、毛髪を伸ばす栄養を与えられている血液中に含まれている鉄や銅などのミネラルの量と相関性がありますから、毛髪のなかに各ミネラルがどの程度含まれているかを正確に調べて過不足を発見し、その人の栄養(ミネラル)の摂り方を修正するうえでの指針にしようという考え方と技術です。

身体の中でDNAの生合成を最も活発に行っているのが毛根で、しかも金属と結合しやすいシステム基が多いことから「毛髪は金属の排泄器官のひとつ」と呼ばれています。また、Cr、Coなどの検出物質の濃度も毛髪では濃く、血中濃度と比較しても約10〜100倍。ちなみに、尿では極く微量しか排泄されません。毛髪以外の生体試料としては一般に血清が用いられていますが、どちらにも長所、短所はあります。

―毛髪はあなたを映す鏡―

一本の髪の毛からも、実に様々なことがわかります。たとえば1821年にフランスで亡くなった、かのナポレオン・ボナパルトの遺髪から高濃度のヒ素(有毒ミネラル)が分析されました。このことから、ヒ素中毒で狂い死したことが推定されます。ヒ素の毒を長期にわたってもられて殺されたのかもしれません。

アメリカは強い軍人をつくるという目的から、ベトナム戦争の戦死者や交通事故で死亡した人を素材にミネラルの研究が非常に進んでいます。その研究成果の平和利用のひとつがオリンピックで勝つための選手をつくるミネラルの研究です。

『毛髪分析』はこのような理由もあってアメリカで発達し、病気にならないような栄養(ミネラル)の摂り方の研究に応用され、いまや不可欠な方法となっています。

古来、東洋医学の分野でも毛髪は血液の余り(血余)であるといわれてきましたが、毛髪は1ヵ月間に約1センチ伸びますから、はえぎわから約1センチを切って調べれば、その人の血管のなかをどのミネラルがどれくらいの量、過去1ヵ月間に流れていたのかという痕跡が残っているかがわかるのです。ただ、実に微量であるため、コンピューターを使った特殊な機器が必要ですが、現代の科学技術はそのわずかなミネラルも正確に測定することができるようになっています。また、その分析値が何を表しているのかを統計学的手法を用いて、かなりの確率で正確な推論をすることができます。

例えばその人の毛髪を分析してみて、銅とクロムが極端に少なければ、その人はやがて動脈硬化を起こし、コレステロールがたまって心臓発作を起こして死んでしまう可能性が高いということがいえます。もちろん、絶対にそうなるということは毛髪のミネラルだけでは断言できない部分もありますが、少なくとも何年も前から、他のどの検査よりも早い時期にその危険性を指摘することができるのです。

そこで対策としては、まずは銅とクロムを多く摂取することがあげられます。ただミネラルというのはビタミンなどに比べてその消化・吸収において難しい面があり、単純にそれだけを摂取したからといって必ずしも吸収されて生体内のミネラルの量が増加するとは限りません。ミネラルの吸収を助長する工夫が必要です。これが分子矯正医学の奥深い部分なのですが、とりあえずは銅とクロムを多く摂取することで、生体内のミネラルの量が健康な人と同じレベルになれば、銅とクロムの不足による心臓発作による突然死の危険性は先にのばされたことになります。

毛髪は一定の方法で洗浄され、強い酸で溶かされて液体となり、8000℃のアルゴンガスのプラズマのなかに送り込まれて、一瞬の間に光輝いて燃えてしまいます。そのときにどんな色の光をどのくらいの強さで出したかを、スペクトル分析してコンピューターを使って測定すると、その毛髪にどのミネラルがどのくらい含まれていたのかを正確に測定できます。

(3)毛髪分析で測定できること

『毛髪分析』という手法は、元来地域別、職業集団別に栄養素としてのミネラル、あるいは環境汚染としてのミネラルが人体にどの程度入り込んでいるかを、集団的に比較するためのスクリーニングテストとして用いられてきた経過があり、克山病(くしゃんびょう)の発見、水俣病やイタイイタイ病の原因追求にも大きく役立ちました。

毛髪に含まれるミネラルの定量分析の略称という意味では既に35年以上の歴史がありますが、現在『毛髪分析』とは定量分析だけでなく、その結果にもとづいた診断までを意味するようになっています。  現在の毛髪分析で診断できる代表的な病気は、有毒金属の中毒と必須ミネラルの欠乏による代謝異常疾患の中でも次のようなものがあげられます。

1.骨の脱灰・・・本格的な骨粗鬆症になったり、骨折する前にその危険性が予知できます。関連としてストレスの過多も推定できます。

2.糖尿病の可能性・・・糖代謝異常、ブドウ糖耐性低下など。

3.近い将来における心臓病の可能性・・・冠動脈異常など。

4.ミネラルの吸収不全

アメリカ上院栄養問題特別委員会の委員でもあったレッサー博士は「有毒金属は毛髪分析で正確に測定することができる。有毒金属を測定することに、毛髪分析は主要な直接的価値をもっている。」と述べています。

ビタミンの発見により、脚気などに代表される欠乏症の克服、ウィリアムス博士が唱えた「生命の鎖」理論、DNA二重螺旋構造の発見、メガ・ビタミン主義など20世紀に発展した生化学の大きなうねりの中から、『分子栄養学』という概念が生まれました。

分子栄養学とは分子生物学の視点に立ち、ヒトの生命維持の主役になる細胞の代謝にはどのような栄養が必要なのかということを探る学問です。そして、その延長線上にあるのが、実践法としての『毛髪分析』を用いた『分子矯正医学』です。この学問は、いま日進月歩の勢いにあるのですが、特に1980年代から90年代のはじめにかけて従来の定説を塗り替える、極めて重要な研究の発表が相次ぎました。このように、健康獲得において不可欠な情報源である『毛髪分析』を、現在の適応範囲である疾患について適切に応用し、また適応範囲を拡げていくためには、この学問に関する知識と最新情報を的確に把握しておくことが非常に重要です。

現在、我が国においても数多くの健康補助食品が販売されています。しかし合成ビタミンの氾濫、キーとなるミネラルの摂り違いや摂り方の間違いなど、知識不足による様々な誤解から、とても正しく用いられているとはいい難い状況にあり、結果として症状の改善がみられないばかりか、かえって不調が増したという例も少なくないようです。ビタミンCのことで非常に有名な、ノーベル賞受賞者のライナス・ポーリング博士が主張されていたように「正しく理解され、かつ正しく用いられ」れば、通常の療法では難病といわれる症状までもが解決できるのではないでしょうか。

(4)どのくらい髪の毛をきるの?

分析のためには、後頭部の頭皮から3〜4センチ以内の毛が0.25グラム以上必要です。切る髪の毛の本数は増えますが、頭皮から1センチ以内でも、合計で0.25グラム以上あれば結構です。

頭髪が必要量摂れなかったり、不適当な頭髪であったり、前回の分析の結果、有毒ミネラルが極めて高い値が検出され、確認のために更に調べたい場合などは、陰毛による分析をお勧めします。パーマやヘアダイなどの処置をしてある頭髪は、検出結果が実際とは異なってしまうため不適です。新しい髪の毛が生えてくるのをしばらく待って、その部分だけで必要量を集めてください。またフケどめシャンプーを使用している場合は商品名を確認し、袋に書いてください。

0.25グラムは付属の簡易紙製はかりを用いて、シーソーの原理で簡単にはかれます。袋に入れていない状態で、つりあいがとれたところから更に毛髪を乗せて下まで落ちれば、0.25グラム以上あることになります。この必要量の確保は大変重要で、不足している場合はアメリカからキャンセルされてきます。

0.25グラム以上確保できたら、専用のビニール袋に入れてお送りください。袋の白い部分にボールペンで、先に姓、後で名の順番で氏名をローマ字で書き、その横に、例えば47才の人は47Yというように、年齢を算用数字で書いて、そのあとにYと書いてください。その横に男性は(M)、女性は(F)と書いてください。更に陰毛の場合はその下に(P)と書いてください。

3週間ほどで、日本語のグラフ、解説書、栄養改善の具体的方法など、毛髪分析の結果にもとづいたウンデンストック博士によるアドバイスが届きます。当院では、さらにデータにリンケージされた資料てんこもりでお渡ししています。

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