BIS(自己資本比率)規制の目的と手段について想う

金融取引の世界的拡大、取引手法の高度化によりどこの国の銀行が破綻しても世界の金融秩序に与える影響が大きくなってきたため、国際的活動をする銀行には自己資本比率に関して国際統一基準を満たすようにすることで、個々の銀行の安定性、健全性を確保し、ひいては国際的な銀行システムの安定性の向上、国際的に活動する銀行の競争条件の確保を目的としている。

従来我が国において、競争制限的規制が主たる規制体系下での自己資本比率規制強化は、マクロ的には金融システムの安定性を維持するという目的のため、またミクロ的には個別金融機関の健全経営を促進するという目的を有し、米国においてのBIS規制が担っている役割とは大きく異なっていたにもかかわらず正当化されている。

このような目的の達成手段として自己資本比率規制を考える場合、第一にインセンティブ規制として機能すること、第二は、自己資本が銀行破綻時において預金者の債権を保全するための純資産を自己資本と定義づけることであった。

我が国は保守主義の立場から「含み益」の自己資本参入を英・米に認めさせた結果、狭義の自己資本では達成し得ない高い最低自己資本比率を保つことができた。これにより邦銀は、旧来の制度論理を継承するだけでなく、「護送船団方式」に養われた自主性・自己責任意識欠落からの回復をも鈍らせることとなった。

当時、地銀が反対した理由は、経営者の責任で維持・向上させるのが自己資本比率の本来の数字であったにもかかわらず、含み益を自己資本に算入することで景気の善し悪しで経営成績に反映されることを嫌ったからであった。不幸にもこの予想は的中し、自己資本比率規制が、銀行の貸出行動と株式市場の状況が連動することになった。

このため平成10年4月からの「早期是正措置」発動により、株価の大幅な上昇が期待できない現状において、邦銀は分母のリスクアセット総額減らしに力を注いだ結果、いわゆる貸し渋りを招くに至った。当然ながら土地担保融資をベースとする日本型間接金融システムも機能低下に陥っている。

結果的にこのような日本的含み経営が、インセンティブ規制として機能することなく、加えてBIS規制の目的の一つである「国際的な銀行システムの安定性の向上、国際的に活動する銀行の競争条件の確保」にも反して、グローバル・スタンダードからみての非効率化、リスクへの挑戦を困難なものとなっている。

また自己資本比率規制は、預金保険制度を初めとするセーフティ・ネット下でのモラルハザードの誘因を低減させるものと見る向きもあるが、残念ながら日本長期信用銀行は、日銀考査の際に虚偽の資料を提出、1998年3月期決算で粉飾決算をしたとして元頭取ら3人が証券取引法違反で逮捕・起訴されている。

このように自己資本比率規制の強化は、金融自由化に伴う規制再編の象徴と目されていたが全く機能しなかったのである。現状を顧ると、解決すべき課題もあるが会計基準としての時価主義採用や各種リスク情報を中心としたディスクロージャー拡充などのインフラの整備が極めて重要であると考える。

 

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